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広島高等裁判所 昭和26年(う)167号 判決

控訴人 被告人 奥村善一

弁護人 謝花寛済

検察官 円藤正秀関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人謝花寛済の控訴趣意は別紙の通りである。

論旨第二点に付

原審が刑事訴訟法第五条第一項に依り原審に係属して居た被告人に対する昭和二十六年(わ)第一二九号窃盗被告事件に山口簡易裁判所に係属して居た被告人に対する昭和二十六年(ろ)第二六号窃盗被告事件を併合して審判する旨決定し、右二事件を併合して審判し山口簡易裁判所が同裁判所に係属して居た右昭和二十六年(ろ)第二六号事件に付公訴棄却の決定をしなかつたことは所論の通りである。而して数個の関連事件が各別に上級の裁判所及び下級の裁判所に係属する場合に刑事訴訟法第五条第一項により上級の裁判所が下級の裁判所に係属する事件を併せて審判する旨を決定した時は、下級裁判所に係属して居た事件は当然其の係属を離脱して上級裁判所に係属するに至り、之に対し下級裁判所は何等の決定を為すことを要せず直ちに其の一件記録を併合決定をした上級裁判所に送附すれば足りるものと解するから、山口簡易裁判所が右昭和二十六年(ろ)第二六号事件に付公訴棄却の決定をすることなく直ちに右事件の記録を山口地方裁判所に送附したのは相当であつて何等所論の様な違法はない。論旨は理由がない。

論旨第一点に付

記録竝原審が取り調べた証拠に依り諸般の事情を調査し、本件犯行の回数、態様及被告人が昭和八年以来懲役刑の前科五犯を有し其の最後は昭和二十年九月七日岩見沢区裁判所で窃盗同未遂罪に因り懲役五年に処せられたものであること、竝びに原判示犯罪事実中三の犯行は被告人が本件被告事件以外に山口簡易裁判所で審理を受けつつあつた窃盗被告事件の保釈中に行つたものであり、四乃至七の犯行は山口簡易裁判所で右事件に付懲役一年の有罪判決を受けて一旦収監せられた後再度保釈を許されて出所中に行つたものである点等を考慮すれば原審が被告人に対し懲役四年の刑に処したのは相当で何等所論の様に量刑が不当であり憲法第三六条に所謂残虐の刑罰に該当するものということは出来ない。

論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条に従い主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 横山正忠 裁判官 秋元勇一郎 裁判官 高橋英明)

弁護人の控訴趣意

一、原判決は刑の量定不当であり個人の基本的人權の保障を害し刑罰法令の適正、実現に欠けて居る(刑訴三八一条同第一条)。又憲法第三六条の残虐な刑罰で違法である。原判決は破棄せらるべきである。即ち(イ)本件犯罪は被告より進んで自白して更生の道を辿るためになしたのに之れを利用して重刑を課す事は人權の保障に欠くのである。(ロ)本件は軽微の犯罪である。(ハ)被告の性格は順良である。

二、山口地方裁判所は訴訟手続違背の事件を併合審理せる違法がある。即ち昭和二十六年四月二十日山口地方裁判所へ起訴せる事件と山口簡易裁判所の起訴事件とを併合審理するに刑事訴訟法第五条に依る時は下級裁判所は公訴棄却の決定をすべきである。又若し刑事訴訟法第三条に依る時は「事物管轄を異にする関連事件」中には刑法第二百三十五条は適用なく本条(第三条)の適用はない。又刑事訴訟法第十九条によりては簡易裁判所より地方裁判所への移送は出来ない。何となれば両者は同等の裁判所でない。此の場合(移送)には刑事訴訟法第三三二条によるべきである。

仍て之れは刑事訴訟手続違背であり且つ判決に影響を及ぼすべき法令の違反であるから原判決を破棄して相当の裁判を求める。

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